就業規則の賃金規程例と変更の際の注意点を解説

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弁護士コラム Column

就業規則の賃金規程例と変更の際の注意点を解説

2025年04月17日
名古屋丸の内本部事務所  社労士 大内 直子

就業規則における賃金規程とは

企業が従業員を雇用する上で重要となるのが「就業規則」です。とりわけ従業員の関心が高いのが「賃金規程」ではないでしょうか。本記事では、賃金規程の概要と作成・変更のポイントをご紹介します。

給与規程と賃金規程の違い

賃金規程とは、従業員の給与や手当など、企業が支払う賃金の内容や計算方法を定めた規程のことです。就業規則の一部に盛り込まれているケースや「給与規程」という名称で別に定める企業もあります。

​​ なお一般的に「賃金規程」と「給与規程」はほぼ同義で使われ、呼び名によって法的差異があるわけではなく、重要なのは労働基準法などの関連法規に沿って、必要な事項を明確に定めているかという点です。

賃金規程の作成に必要な事項

賃金規程を作成する際には、以下の項目を明確にしておくことが求められます。

1. 賃金の決定  
​・基本給や各種手当の決定基準、給与テーブルなどを明確にする

2. 賃金の計算および支払いの方法
​・時間外労働や休日労働に対する割増賃金の計算方法 ・現金による直接払いか金融機関への振り込みか

3. 賃金の締切り及び支払の時期、昇給に関する事項
​・支払いの期日(毎月〇日締、○日払い)のルールはどのようなルールか
​・昇給はいつ、どのような方法で行うか

4. その他支払いに関するルール
​ ・賞与や退職金、通勤手当・住宅手当など各種手当について

賃金規程は、従業員に直接影響する重要な規定です。漏れがないように、労働基準法や関連法規に基づいた記載が必要です。    

​給与計算で残業代を計算する際

​「残業の単価をどのように求めたらよいか分からない。」
​「遅刻や早退をした場合の控除の計算はどのようにしたらいいの?」


​​といったお問合せを受けることがあります。

​​この点、たとえ賃金規程に計算方法の記載がなくても、残業代の単価の求め方は労働基準法施行規則第19条第1項に明示されているのですが、法律に不慣れな方が条文の内容を確認するのは容易ではありません。

​​一方、遅刻や早退をした場合の控除方法は法律に定めがないものの、そうであるからこそ、どのように計算したらよいか戸惑うことが多いのではないでしょうか。 毎月異なる給与計算方法では、従業員の不信感を招く恐れがあります。

​​そこで法律を理解し、日頃から給与計算に精通している社会保険労務士と共に、実務において役立つ規程になるようしっかり賃金規程の整備を行いましょう。

賃金規程の記載例

賃金規程を就業規則に盛り込む際には、以下のような形式で記載します。

第〇節 総則 第○条(賃金の決定・計算方法)
​ 1.賃金の計算期間は毎月1日~末日までとする
​2.賃金は毎月末日を締切りとし、翌月〇日に支払う。支払日が休にあたる場合は支給日を変更することがある。

​​ 第〇節 基本給 第〇条(基本給) 案1)職務等級および勤務年数に応じて次の表に従い決定する。 案2)年齢、経験、能力、職務の困難度・責任の程度、勤務成績、勤務態度等を考慮して各人ごとに決定する。 第〇節 各種手当 第〇条(役職手当) 役職手当は次の通り毎月支給する。  部長:○○〇〇円 課長:○○〇〇円 係長:〇〇〇〇円 第〇条(通勤手当)   1ヶ月の通勤定期券代を上限に実費を支給する。 第〇条(時間外勤務手当) 時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増賃金は、労働基準法の定める率により算出する。

【明確化のポイント】

​ ・基本給の計算方法
​ 具体的な賃金テーブルがあればそれを明示する ・割増賃金の計算方法 時間外労働(残業)や休日労働、深夜労働など、それぞれ労働基準法で定める割増率(25%、35%、25%など)を乗じて算出する旨を記載する

​ ・手当の計算方法
​通勤手当は距離や交通手段による一定額、役職手当は役職に応じた固定額など、支給基準を明確化することが重要

なお、基本給の項目に「基本給は個別の契約で定める。」のような記載がされている規定を見かけますが、賃金規程に定めるべき事項は「賃金の決定方法」に関する事項ですので、「個別の契約で定める」の記載では不十分と言えます。

​​また欠勤や遅刻早退をした際に給与を減額支給したい場合には、どのような計算方法で減額するか、端数処理はどうするか、などについても明確にしておきましょう。

別に定める場合の記載例

賃金規程に関連するものとして、賞与や退職金について賞与規程や退職金規程などを別途定める企業もあります。

​​これらは「相対的必要記載事項」の項目とされ、企業で設ける場合にはそのルール(支給対象者、支給時期、支給方法、支給対象期間や支給要件等)を規則規程等で明示しなければならないとされています。

賃金規程変更時の注意点

先に記載の通り、賃金規程を変更する場合、従業員に「不利益」となる内容が含まれるときは特に注意が必要です。

​​労働契約法によると、就業規則の内容を不利益に変更する場合は、変更について合理性が求められますので(従業員が受ける不利益の程度、変更の必要性や内容の相当性、労働組合等との交渉状況、その他の事情等に合理性があるか)、従業員等と十分に協議し、納得を得るよう努めましょう。

​​また企業の経営状況等やむを得ない理由による変更であっても、変更を正当化ができる理由があるかどうか、明確に示さなければなりません。

確認すべき関連する法律

• 労働基準法  
​賃金の最低基準や割増率などが定められています。

• 最低賃金法  
​地域別最低賃金を下回らない金額設定が必要です。​

• 労働契約法  
​労働契約の締結、変更、解雇および雇止めに関するルール等が定められています。

• 男女雇用機会均等法・パートタイム・有期雇用労働法  
​従業員の雇用形態による不合理な格差を生じさせないように配慮が必要です。

賃金規程変更に必要な手続き

賃金規程変更時語は、以下の手続きを踏むのが一般的です。

1. 変更案の作成  
​変更内容を具体的な条文としてまとめる。

2. 従業員への説明・意見聴取  
​従業員代表や従業員に対して説明会を実施し、従業員代表から意見を聴取する。

必要な書類と記載事項

• 改訂後の賃金規程  
​新旧対照表等を作成し、どの部分がどのように変更されたかを明確にします。

• 説明資料  
​従業員向けの説明会に使用する資料や、FAQなどを整備すると円滑に進めやすく なります。

• 同意書・承諾書(必要に応じて)  
​不​利益変更を伴う場合は、従業員の個別同意が必要となるケースもあるため、同意書等の書面を用意しておくのが良いでしょう。

従業員代表意見書の提出

就業規則や賃金規程を変更する際には、労働基準法に基づき、従業員代表の意見を聴取した書面(意見書)を添付する必要があります。ただし、意見書はあくまで「意見」の提出であり、同意を得る義務が必ずしも発生するわけではありません。

​​しかし、不利益変更の場合は実質的な同意の有無がのちに争点となることが多く、慎重に対応する必要があります。

なお、意見徴収する際

​​『どのような人にお願いをしたらよいですか?​​』

​​との質問を受けることがあります。

​​法律上は「労働組合や労働者の過半数代表者に意見を聴くこと」と記載されているのみで、実際はどうしたらよいか分からない方も多いようです。

​​この点、行政通達においては

​​①管理監督者ではないこと 
​​②使用者の意向によって選出された者ではないこと


​​ 以上2点のいずれも満たすものでなければならないとされています。特に注意すべきは②ではないでしょうか。
​お願いしやすい従業員に、ついお願いしてしまいたくなりますが、それでは法が求める意見聴取の要件を満たしていないことになりますので、ご注意下さい。

労基署への届け出

常時10人以上の従業員を使用する事業場では、就業規則や賃金規程を作成・変更した場合に、労働基準監督署へ届け出る義務があります。

​​届出を怠ると、行政指導や罰則の対象となる可能性がありますので注意しましょう。

賃金規程の従業員への周知義務

就業規則や賃金規程は従業員にとって労働条件を確認するうえで不可欠なものです。

​​労働基準法にもとづき、「常時各作業場の見やすい場所へ掲示する」または「社内ネットワークで閲覧可能にする」など、従業員がいつでも閲覧できる状態にする必要があります。

​​周知義務を怠った場合も、行政指導や罰則の対象となる可能性があります。

賃金規程と実態があっていない場合のリスク

就業規則や賃金規程等と、実態が異なる場合、以下のようなリスクが考えられます。

1. 未払い賃金等の請求
​各種手当や割増賃金が規定どおり支払われていないと、後に従業員から請求される可能性があります。

2. 行政による是正勧告や罰則  
​労働基準監督署の調査で違反が発覚した場合、是正勧告や罰則が科されることがあります。

3. 労使トラブルや信用失墜  
​​就業規則との不一致は従業員の不信感を招き、その結果トラブルの増加や離職の増加につながるおそれがあります。

労務トラブルを未然に防ぐためにも、就業規則・賃金規程は定期的に見直し、最新の法令や社内実態に即した運用を行うことが重要です。

社労士に依頼するメリット

賃金規程は、企業、従業員双方にとって大変重要な規定です。企業規模や業種・職種によって適切な内容は異なりますが、法律を遵守しながら、実態に合った形で定めることが求められます。

​​特に変更時には従業員と十分な協議を行い、合理性と合意を得たうえで進めましょう。

​​社会保険労務士などの専門家に相談することで、よりスムーズな運用とリスク回避が期待できます。

​​なお当事務所には企業の問題を未然に防ぐお手伝いをする社会保険労務士、問題が発生した場合にその解決を行う弁護士の双方が所属していますので、双方の視点に配慮した賃金規程の作成を行うことが可能です。

​​貴社の就業規則や賃金規程の作成・変更でお困りの際は、ぜひ愛知総合法律事務所の社会保険労務士へご相談ください。

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この記事の著者

大内 直子

社労士

大内 直子(おおうち なおこ)プロフィール詳細はこちら

名古屋丸の内本部事務所

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