財産開示手続の流れと無視された時の対応を弁護士が解説
財産開示手続とは
財産開示手続きは、債務者(開示義務者)が財産開示期日に裁判所に出頭し、債務者の財産状況を陳述する手続きです。
権利実現の実効性を確保するために、債権者が債務者の財産に関する情報を手に入れるための手続きとなります。
財産開示手続の必要性
裁判を行い、判決等を取得しても、債務者の方から進んで支払いが行われなければ、強制執行を行って、相手方の財産を差押えなければ、債権を回収することはできません。相手方の財産を差し押さえるためには、相手方のどの財産を差押えるかを特定しなければなりません。
しかし、判決等を取得したからといって、裁判所が債務者の財産を自動的に調べてくれるということは一切ありませんし、債務者との関係が緊密な関係でなければ、相手方がどのような財産を持っているかは通常分かりません。
差押のことについて債務者が知っていれば、債務者が債務者の財産の情報を自ら提供するということは考えにくいものとなります。
そうすると、判決を取得し、相手方が支払いを行わなければならないと決められているにも関わらず、債権を回収できないという事態が発生してしまいます。
そこで、財産開示手続きによって、相手方の財産について陳述を行わせ、差押えに必要な情報を取得することが必要となるのです。
財産開示手続の流れ
まず、前提として
執行力のある債務名義(確定判決、公正証書等)か、
一般先取特権を有している必要があります(民事執行法197条1項、2項)。
財産開示手続きを開始してもらうためには、申立書類を作成し、申立を行う必要があります。
申立が認められると、債務者が裁判所に出頭する財産開示期日が、1カ月程度後に設定されます。
裁判所から債務者に対して、呼出状と、財産目録提出期限通知書が送られます。
その提出期限までに債務者から財産目録が提出されるはずです。
財産開示期日の前に質問書を提出しておくと、財産開示期日においては、出廷した債務者に対して、質問書を元に裁判所が質問を行います。
また、裁判所の許可を得て、債務者に対して質問を行うこともできます。
これは、事実上の話になりますが、財産開示手続きに出廷した債務者と、支払の約束ができ、債権が回収できるケースもあります。
無視された場合の対応
しかしながら、裁判所から、呼出状が出されても、債務者が、無視して出頭しないというケースも残念ながらあり得ます。
2020年の法改正によって、債務者が出頭しない場合や、虚偽を述べた場合のペナルティーについて、「30万円以下の過料」から、「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」とペナルティーが大幅に強化されています。
そのため、債務者が出頭しない場合には、捜査機関に告発を行うということが考えられます。
債務者が処罰を受けても、債権が回収できるわけではありませんが、告発によって捜査機関により債務者の捜査が行われることにより、処罰を避けようとする債務者から債権の回収を受けることが期待できます。
当事務所においても、財産開示手続に出頭してこなかった債務者に対して刑事告発を行った結果、債務者より連絡と謝罪があり、債権を回収できたケースがあります。
また、財産開示手続に先行することもできますが、第三者からの情報取得手続を利用することも考えられます。 第三者からの情報取得手続きについては別記事に譲ります。
財産開示手続の申立の手順や必要書類
財産開示手続きは、債務者の現在の住所を管轄する地方裁判所に申立を行うこととなります。
必要書類としては、財産開示手続申立書、当事者目録、請求債権目録、財産調査結果報告書等が必要となります。
書式については、裁判所のホームページにも記載例がありますので、ご自身で作成可能な方は、ご自身での作成に挑戦しても良いかもしれません。
強制執行とは?財産開示手続が無視された場合の債権回収
強制執行は、裁判所から債務者から強制的に財産を回収する手続きです。
財産開示手続きにより、債務者の財産が明らかとなった場合には、その財産に対して、強制執行を行うことになります。
財産開示手続きが無視された場合に、強制執行を行うためには、第三者からの情報取得手続きを行うことが考えられます。
第三者からの情報取得手続きについては、財産開示手続きに先立って行うことも一部可能です。第三者からの情報開示手続きについては別記事に譲ります。
財産開示手続で開示される財産
財産開示手続で開示される財産については、財産目録に記載がされる下記の財産となります。
①給与・俸給・役員報酬・退職金
②預金・貯金・現金
③生命保険・損害保険
④売掛金・請負代金・貸付金
⑤不動産所有権・不動産賃借権
⑥自動車・ゴルフクラブ会員権
⑦株式・債権・出資持分・手形小切手・主要動産
⑧その他の財産
弁護士へ相談・依頼するメリット
財産開示手続きを行うには、まず、判決等の債務名義を取得する必要があります。
債務名義を持っていない場合は、まずは、債務名義を取得するために、弁護士に相談・依頼を行うことが考えらます。
弁護士が債務名義を取得した場合は、その流れで、財産開示手続きも行うということが考えられます。
弁護士が債務名義を取得する場合は、その大部分の事件においては、財産開示手続きによらなくても、債権の回収ができるということが実情であり、和解等で回収の実現が可能な解決を目指すということも必要となります。
離婚事件などでは、婚姻費用・養育費、財産分与などの争いの中で、相手方の財産の情報を取得できるということもあります。
そのため、まずは、財産開示手続きに至る前の段階も重要となります。
財産開示手続きは、資産はあるのにそれを隠しているというようなケースで有効な手続きとなります。
法改正前は、実効性に乏しく選択肢として上がりにくいものでしたが、法改正後については、行う意義がある手続きとなっています。
過去において債務名義を取得していたが、回収できずに諦めていたケースにおいて、法改正後に依頼をいただいたケースもあります。
財産開示手続きについて、弁護士が依頼を受けた場合には、申立手続き、期日の出廷等は弁護士が全て行います。
財産開示手続きの罰則が強化されたことは、少し調べれば分かりますので、今後は、財産開示手続きを無視せず、債務者が出廷するケースも増えてくるのではないかと思います。
訴訟等の法的な手続きを意味があるものにするためにも、財産開示手続きの違反に対しては、捜査機関において、然るべき処罰が与えられることが期待されます。