65歳までの雇用義務化に対応する就業規則変更チェックリスト
2025年08月21日
名古屋丸の内本部事務所
社労士 小木曽 裕子
なぜ今、就業規則の見直しが急務なのか?高年齢者雇用安定法改正のポイント
65歳までの雇用義務化とは?企業が必ず対応すべきポイント
平成18年4月1日に改正施行された高年齢者雇用安定法により、企業には65歳までの雇用確保措置導入(平成18年4月1日時点では62歳、平成25年4月1日までに段階的に65歳まで引き上げ)が義務化され、この雇用確保措置は、以下のいずれかにより講ずることとされました。
① 定年の引き上げ
② 継続雇用制度の導入
③ 定年の定めの廃止
この内、②については、対象者の基準を定める労使協定(以下、「継続雇用協定」という)の締結が可能が可能とされていたため、本人が継続雇用を希望しても、継続雇用協定に定める基準に該当しなければ、65歳まで継続雇用する義務はありませんでした。
平成25年4月1日に改正施行された同法では、この継続雇用協定を廃止することとなりましたが、経過措置として、平成37年(令和7年)3月31日までの間は、一定の方(厚生年金報酬比例部分の支給開始年齢以上の方)を対象に、引き続き継続雇用協定を使用することが可能とされていました。
そして、令和7年4月1日にこの経過措置期間が経過し、全ての企業において、希望者全員を65歳まで雇用することが義務となりました。
これに伴い、これまで上記経過措置を利用されていた企業では、就業規則の改正が必要となります。
なお、経過措置を利用されていた企業でも、段階的に雇用義務年齢が引き上げられているため、既に雇用延長に向けた取り組みを実施されているものと思いますが、対応が後手となっている企業の方は、給与等コスト、若手のポスト確保、退職金の精算等、重要事項についてトラブルとなる可能性がありますので、直ぐに対応が必要です。
対応が遅れるとどうなる?就業規則の不備が招く労務トラブル事例
雇用延長に伴い整備すべき事項として、以下が挙げられます。
① 給与額
② ポスト
③ 勤務体系
④ 退職金の精算時期・計算期間
上記の対応等について整備されないまま、「今まで通りでいいか」や「定年しているから、給与は〇%カットでいいでしょ」と安易に対応すると、人件費の増大や未払賃金が発生するリスク等があります。
継続雇用・定年延長のメリット・デメリット比較
「定年引き上げ」と「継続雇用制度」、どちらを選ぶべきか
65歳までの雇用延長方法が3つあることを冒頭で述べさせていただきました。
多くの企業では、この内、「定年引き上げ」と「継続雇用制度」の選択で悩まれるかと思います。
「定年引き上げ」については、就業規則等による特約が無い限り、従前の雇用契約がそのまま継続されることになりますので、安定した雇用に繋がりやすくなります。
「継続雇用制度」については、多くの場合、60歳等の定年年齢でこれまでの雇用契約を終了させ、再度新たな契約を締結する制度を指しますので、この場合、定年という節目に今後の勤務について考えるきっかけとなり、その結果、退職へ繋がるリスクがあります。
しかし、年齢を重ねると、これまで通り勤務することが体力等の面から難しい方もみえますし、従前通りの給与額やポストを維持することが、人件費の増大や次世代の昇進機会を奪うというリスクに繋がることが考えられますので、そのような心配のある企業については、定年後に新たな雇用契約を結ぶ継続雇用制度の導入が良いかもしれません。
各制度の導入ステップと、企業が陥りがちな失敗パターン
1. 導入ステップ
① 65歳までの雇用確保措置の選択
社内の実情を踏まえたうえで、3つの制度のうち、どの雇用確保措置を取り入れるか選択します。
② 雇用延長後の雇用条件決定方法のルール化
定年延長後の雇用条件を変更する場合は、この変更ルールを定める必要があります。
一言で「雇用条件」としておりますが、この中には、給与、勤務時間(勤務日)、ポスト、業務内容等、あらゆる項目が含まれます。
これらにつき、いつ、どのような基準で、どのように決定するかルール化する必要があります。
③ 退職金精算時期の決定
精算時期を従前の定年年齢にするのか、雇用延長が終了した時にするのか、雇用延長が終了した時とするのであれば、計算期間も延長するのか等、決定する必要があります。
④ 決定したルールを就業規則へ盛り込む
これら決定したルールの多くが労基法上において就業規則へ記載すべき内容とされていること、また重要な労働条件であり従業員の方との間でトラブルとなる可能性が高いため、予め就業規則へ明記する必要があります。
選択を誤らないために。制度設計で社労士が果たす役割
勤務延長後の雇用条件決定については、いわゆる同一労働同一賃金の規制も絡むため、安易に制度設計を行うと、未払い賃金請求等のリスクが発生します。
しかし、従前条件継続では、コストの増大や若手の昇進機会喪失等、様々な組織体制の歪みを生じさせる可能性があります。
安易な決定は避け、顧問社労士等へ相談のうえ、各企業の実情を踏まえた制度設計を行うことをお勧めします。
【最重要】トラブルを未然に防ぐ!賃金・労働条件の見直し方
年再雇用後の賃金はいくらが妥当?
「同一労働同一賃金」との関係性
定年再雇用後の賃金を、「定年前の●%」や「●円減額」のように一律に定めている場合、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)に定める、同一労働同一賃金の規定に違反する可能性があります。
同一労働同一賃金では、フルタイムかつ無期雇用者(いわゆる正社員)と、短時間または有期雇用者(短時間・有期雇用者)との間で、不合理な待遇差を設けることを禁止しています。
定年後再雇用者の方は、労働時間を短縮することや、契約期間を設けて勤務継続することが多いため、その場合、この規制の対象となります。
待遇差がある場合、正社員と短時間・有期雇用者との間の、職務内容、職務内容及び配置の変更の範囲の差に応じたものでなければ、不合理な待遇差と判断されることになります。
また、不合理な待遇差であるか否かは、各待遇の性質および付与目的も勘案し判断することになります。例えば、定年前に部長職に対する役職手当として10万円支給されていたものが、定年後は役職が解かれ不支給となった場合は、同一労働同一賃金上の違法性は無いものと考えられますが、定年後も部長職(もしくは同様の職務)を継続し、何ら勤務内容に変更が無いにも関わらず、役職手当がカットされた場合、違法となる可能性があります。
定年再雇用後の賃金は、「職務内容」と「職務内容および配置の変更範囲」およびその他の事情に照らし、合理性のある金額とする必要がありますので、一律に定年前賃金の●%等と決定されないよう、お気をつけ下さい。
賃金・労働条件の設計こそ、専門家(社労士)に
以上のように、同一労働同一賃金を考慮した定年後再雇用者の賃金設計は容易ではありません。
違法とならないよう設計するためには、下記手順を踏むなど、合理的な対応が必要となります。
① 各待遇の性質や支給目的を明確にする
② 正社員への付与状況を洗い出す
③ 短時間・有期雇用者への付与状況を洗い出す
④ 上記②③に違いがある場合、その理由を洗い出す
⑤ 上記④の理由が、「職務内容」と「職務内容および配置の変更範囲」によるものでない場合、その差を是正する。
理由が、「職務内容」と「職務内容および配置の変更範囲」等によるものであっても、その違いに応じた差とする。
上記のようなステップを踏んでも、結局「この金額でいいのだろうか」と判断に悩まれる方が多いと思います。そのような場合は、専門化である弁護士や社労士へ相談されることをお勧めします。