【弁護士解説】面会交流を拒否されたら違法?
2025年10月21日
名古屋丸の内本部事務所
弁護士 磯部真琴
面会交流の拒否は原則むずかしい—判断は「子の利益」が最優先
面会交流とは、子と離れて暮らす親が、子と会ったり、手紙や電話でやりとりしたりすることをいいます。
これは、両親との関わりを維持することが子の健やかな成長にとって非常に重要であるという考え方に基づき、子の福祉の観点から、子に保障される権利です。
面会交流の意義が「子の利益」にあるため、親が面会交流を拒否することができるか否かについても、「子の利益」を考慮して判断されます。
そのため、子と親との面会交流を、その子を監護する方の親が自身の感情や都合のみを理由として拒否することは認められません。
もし、家庭裁判所での調停や審判の手続を経て取り決めをした場合、裁判所で決めた面会交流の約束を守らない親に対し、金銭的なペナルティを課す間接強制という一種の強制執行の手段をとることができます。
面会交流を拒否できる「正当な理由」
子と一緒に暮らす親が、子と離れて暮らす親と子との面会交流を拒否できるのは、「正当な理由」がある場合に限られます。
面会交流を拒否する「正当な理由」として認められやすい例には、以下のような場合が挙げられます。
・子が自らの意思で会いたくないと言っている場合
子が拒絶している場合は、年齢・発達段階・拒絶理由などを考慮して「正当な理由」といえるかが判断されます。
子が同居する親の顔色をうかがってそのように言う可能性がある場合はこれに当たりません。面会交流調停の手続においては、子が自らの意思で拒否しているか否かを確認するために、調査官による調査が行われることもあります。
・離れて暮らす親による子への暴力
・虐待の危険や連れ去りのおそれがある場合
・子の面前で子と同居する親への暴力等が行われる場合
・面会交流の合意事項に反復して違反した場合
面会交流の約束を何度も守らない場合は、子との信頼関係が失われ、子の心情や精神的安定を害することになります。
一方、面会交流を拒否する「正当な理由」として認められにくいのは、下記のような理由です。
・親が拒否している場合
・子と同居する親が再婚した場合や子が養子縁組した場合
・子と離れて暮らす親が養育費を支払っていない場合
面会交流は、子が一緒に住んでいない方の親とも交流をもつことそれ自体が、子の利益のために必要であるとの考え方に基づいているため、上記のいずれもその一事をもって面会交流を拒否することができる事由とはいえません。
【状況別】拒否されたときの具体的ステップ
子と同居する親に子との面会交流を拒否された場合に、面会交流を実現するため子と離れて暮らす親がとる手続をご説明します。
① 面会交流調停の申立て
相手方となる親の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者間で合意した家庭裁判所に申立てをします。
② 面会交流調停期日
中立な立場の家庭裁判所の調停委員が間に入り、申立人と相手方から交互に話を聴きます(当事者同士は直接対面することなく進められます)。
面会交流を実施することになれば、その回数、日時、場所、方法等の具体的条件を、子の年齢、性別、発達状況、生活環境、性格等を考慮して話合いを行います。
合意にあたって、子の意向や生活環境を確認する必要がある場合には、家庭裁判所の調査官による調査が行われることもあります。
※調停期日は1~2か月に1度のペースで行われます。成立まで半年以上かかることもしばしばあります。
※調停期日内で調停委員を通じて条件を決め、期日間で試験的に面会交流を実施することもあります。
③ 調停の成立/不成立
調停手続の中で面会交流の実施条件が整えば、その内容を「調停調書」にまとめて調停が成立します。 これに対し、合意に至らない場合は調停不成立となり、調停手続は終了します。
④ 審判手続への移行
調停が不成立となると、自動的に「審判」という手続に移行します。審判手続では、調停で提出された資料等から事実関係を調査し、当事者の意見を聞いた上で、裁判所が面会交流実施の可否・内容について判断を下し、「審判書」が作成されます。
⑤ 実現
調停調書や審判書に書かれた内容に従って面会交流を実施します。
調停調書や審判書は、判決と同じ法的効力がありますので、当事者はこれを守らなければなりませんが、仮に守られない場合は以下の手段があります。
・家庭裁判所による履行勧告の申立て
家庭裁判所から相手方に対し、調停や審判で決まった面会交流の内容を守るよう勧告することで、任意の履行を促す制度です。しかし、履行勧告には強制力はないため、これにも応じない場合には下記の間接強制をすることになります。
・間接強制の申立て
強制執行の一種です。面会交流は、子を直接連れていかせるという方法での強制(直接強制)はとることはできません。
そのため、面会交流の約束を一度破る度にいくら支払うという金銭の支払いを命じることによって履行を促す「間接強制」という方法がとられます。
トラブル予防の取り決め方
面会交流の合意は、単なる口約束ではなく、書面で行うことが重要です。書面化されていない場合、相手が約束を守らなかったとしても、不履行ということが難しくなることがあります。
書面化する内容は、将来のトラブルを防ぐため、誤解の生じないわかりやすく明確な表現を使うべきです。
また、後の間接強制が認められなくなるリスクを抑えるためにも、面会交流の内容(日時や場所、実施時間、頻度など)が特定されている必要があります。
ただし、子の状況に応じて柔軟に対応できるように、日時変更が必要になった場合の連絡方法や事情変更が生じた場合の協議に関する条項も入れておく方がよいこともあります。
よくある質問
Q養育費の不払いを理由に拒否できる?
A できません。
面会交流と養育費の支払いは切り離して考えられます。養育費の支払いを面会交流の交換条件とすることはできません。そのため、養育費が支払われていないことのみをもって面会交流を拒否することはできません。
Q子が「会いたくない」と言うときは?
A なぜ「会いたくない」のか聞き出して。
面会交流は子の利益のために行われるものですので、子の意思は十分に尊重されるべきです。ですが、子が同居する親に気をつかったり、同居する親から影響を受けたりしてそのように言うことも少なくありません。
子がなぜ「会いたくない」というのかを聞き取り、子が自らの意思で拒否しているかどうかを慎重に判断しなければなりません。
Q子と同居する親が再婚し、再婚相手と子が養子縁組した場合、面会交流はできなくなる?
A できなくなるわけではありません。
子と同居する親の再婚相手と子が養子縁組をすると、この2人の間に親子関係が生じますが、実の親との親子関係が消えるわけではありません。
法律上も親の再婚や、その再婚相手と子の養子縁組を、面会交流を制限する事由とはされていません。そのため、これまでの面会交流が当然にできなくなるわけではありません。
とはいえ、子にとっては新しい親との関係作りも重要です。これまでの面会交流が子の心情や精神的安定に悪影響を及ぼす可能性がある場合には、条件などを変更すべき場合もあります。
Q 祖父母などの第三者が面会交流に立ち会うことはできる?
A 原則認められていません。
面会交流に関して定める民法766条1項は「父又は母と子との面会及びその他の交流」と規定しています。家庭裁判所も、祖父母も含め、子の父母以外の者の面会交流の申立権を否定する扱いをとっています。しかし、当事者同士が合意しており、子の利益の観点からも不適切でなければ、祖父母などの第三者が立ち会うことも考えられます。