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弁護士コラム Column

兄弟が勝手に処分した遺産は取り戻せる?

2023年04月18日
小牧事務所  弁護士 小出 麻緒

はじめに

相続手続を進めることになった段階で,自分以外の相続人 (相続人以外のケースも想定できますが,今回のブログでは相続人、兄弟姉妹などに限定して解説します。)が勝手に土地や建物を売却したり,預貯金を引き出したり解約してしまっていたことが判明することがあります。

​​この場合,法的には,「どの段階(どの時点)」で不動産の売却や預貯金の引出しがされたか(「処分」がされたか)によって,その後に選択すべき手段や手続に大きく影響が出てきます。 特に,被相続人が亡くなった日の前後で異なるため,以下では,まず,生前に処分された場合から見ていきたいと思います。

生前に遺産が処分された場合

生前に遺産が使い込まれていた例としては,①亡くなった人の意思に反して勝手に使っていた場合,②亡くなった人の承諾を得て使っていた(受け取った,生前贈与を受けた)場合に分けられます。

亡くなった人の意思に反して相続人(兄弟姉妹など)が勝手に使っていた場合

この場合,勝手に使った相続人が亡くなった人の意思に反して利益を得ていることになりますので,法律上,亡くなった人の「不当利得返還請求権」又は「不法行為による損害賠償請求権」を主張し,家庭裁判所ではなく地方裁判所で取り扱う民事事件として解決していくことになります。 

​​注意すべき点としては,不当利得返還請求権は長期10年(短期5年),不法行為に基づく損害賠償請求権は長期20年(短期3年)の消滅時効(いわゆる「時効」)に関する問題が生じることです。

亡くなった人の承諾を得て使っていた場合

この場合,当該相続人は,亡くなった人の意思に即した利益を得ていることになりますので,相続法上,「特別受益」であるとして,相続人自身の権利として主張することになります。

​​ただし,すべての贈与が特別受益に当たるわけではなく,該当するものとしては,​①婚姻のための贈与,​②養子縁組のための贈与,​③生計の資本としての贈与に限られます。

​​たとえば,結婚の挙式費用などは,結婚生活を維持するための贈与ではないため,①にも③にも当たらないとされています。他にも,扶養義務の範囲内で生活費や学費を支払ってもらっていた場合には,③には当たりませんが,範囲外の部分は特別受益に当たるということになります。

特別受益に当たる場合には,その部分を遺産に加算してから,各相続人の相続分を計算します。

​​これを,特別受益の持戻しといい,相続人全員のそして,特別受益を受けた相続人の相続分は,計算された相続分から特別受益を控除した額を相続することになります。

具体的な事例で見てみましょう。

亡くなった母の相続人は長女,長男,次女の3人で,法定相続分は各3分の1です。亡母には1000万円の預貯金が残っていましたが,亡くなる1年前に長女が200万円の特別受益を得ていました。

​​この場合,それぞれの相続分は,(1000万円+200万円)×3分の1=400万円となります。

​​長女は,200万円の特別受益があったため,400万円-200万円=200万円が相続分となり,長男と次女は400万円ずつを相続することになります。

ただし,特別受益の持戻しは,亡くなった人の遺言により免除(遺産の計算に加算しなくて良いとすること)することができますが,いずれに贈与について免除するのか明確に記載しておく必要があります。

区別が困難である場合

このように,生前に遺産が使い込まれた場合,生前贈与となるか,勝手に使ったかについては,預貯金通帳の履歴からは必ずしも客観的に判断できるものではなく,むしろ判断できないケースがほとんどです。時効による制限もありますが,亡くなった人の意思がわからない場合には,念のため,いずれの請求も行っておくことが多いでしょう。

亡くなった後に遺産が処分された場合

次に,亡くなった後に遺産が処分されていた例も見ていきたいと思います。

​​遺言がなくても,遺産分割が進められたり,相続放棄したことになっていたり,逆に遺言があっても知らないうちに手続が完了していたりすることがあります。

相続人(兄弟姉妹など)に勝手に相続手続が進められた場合

知らないうちに勝手に相続の手続が進められていたことで,遺産が処分されてしまった場合です。  

​​たとえば,他の相続人(兄弟姉妹など)に実印が保管されている場所を把握されていたり,実印を預けている場合で,遺産分割協議書等に勝手に署名と捺印がなされてしまうケースがあります。  

​​もちろん,勝手に署名や捺印をすることは刑法上の私文書偽造(刑法159条以下)に該当しますが,実印が押されている場合,同じ印鑑の印影であるか確認されるにとどまり,相続手続が進んでしまう可能性が高いです。  

​​ここまでブログを読んでいただいた皆様には,ぜひ実印の保管状況を一度確認していただければと思います。

預貯金を引き出されていた場合

亡くなった後も預貯金の通帳を保管している相続人(兄弟姉妹など)が口座凍結前に引き出してしまうことがしばしばあります。  

​​引き出された預貯金は,遺産分割の時点では存在していないことになりますので,原則として遺産分割の対象となりません。

​​例外的に,相続人の全員の合意があれば遺産分割手続(家庭裁判所では調停や審判など)の中で処理できますが,引き出した相続人が明らかであれば,その相続人の同意は不要とされています。  

​​交渉が決裂し,遺産分割の対象とならないことが確定した場合には,相続人自身の権利である,不当利得返還請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権を主張することによって,生前での場合と同様に民事事件として争うことになります。

不動産が売却されていた場合

一般的に,亡くなった方の遺言や遺産分割協議書等がなければ,遺産に含まれる不動産を勝手に売却される可能性は低いように思われます。

​​ところが,既にご説明したとおり,実印を預けているなど,他の相続人が容易に文書を偽造できてしまう状況においては,遺産である不動産が知らないうちに売却されているということもあるかと思います。

​​この場合,発覚した時点で新たな所有者に名義が変更されている可能性が高いため,勝手に売却した相続人(兄弟姉妹など)から売却代金を返還させるか,相続分を分割するように交渉することとなる場合が多いでしょう。

株式が売却されていた場合

不動産と同様ですが,勝手に売却した相続人から受け取った売却代金を分割するよう交渉することとなります。

相続放棄をされて(して)しまった場合

知らないうちに相続放棄されてしまったり,騙されたり脅されたりして相続放棄をしてしまった場合などが考えられます。

​​この場合,相続放棄については,騙されたり脅されたり勝手に相続放棄をされていることに気づいた日から6か月,又は相続が開始した時から10年のいずれか早い時期までとなりますが,取消し又は無効を主張することができます。

​​ よく似た言葉で誤解をされる方が時々いらっしゃいますが,必ずしも家庭裁判所で申請することを必要とせず,権利のみを対象とする「相続分」の放棄と,家庭裁判所に申請して権利も義務も承継しないこととする「相続放棄」は異なるものですのでご注意ください。

遺言書にすべての財産を特定の相続人(兄弟姉妹など)に相続させる内容となっていた場合

遺言の有効性を確認し,無効となる可能性が生じた場合には,遺言無効確認の手続が必要となります。

​​遺言の無効については,亡くなった人が遺言を作成した当時の状況を知らない相続人からのご相談が多いため,専門家である弁護士が調査した方が良い場合があります。  

​​そして,遺言が有効となる場合でも,遺留分の主張をすることが可能です。この場合,生前贈与などの特別受益があるかどうかはもちろん,遺留分を侵害されていることに気づいてから1年以内に内容証明郵便等により権利主張しないと時効となってしまいますので,期間制限にも注意が必要です。

​​なお,特別受益については,遺言に持戻免除について記載がないか確認しておくことも重要です。

過去の事例

実際にご依頼を受けた案件で,亡くなった人の預貯金通帳を確認したところ,相手方である相続人に生前贈与がなされていた件がありました。特別受益の主張をする際に,相手方や亡くなった人の当時の生活状況や贈与の意味合いなどを検討しながら進めさせていただきました。

弁護士に依頼するメリット

弁護士にご相談いただければ,遺言の有効性に関する調査,使途不明金の調査や交渉,遺留分侵害額請求など,ご事情やご要望に沿った手続を提案させていただくことが可能です。  

​​相続はすべての方にとって身近な問題ですが,踏み込んで考えてみると手続が非常に複雑となることもあります。  

​​実際に相続をすることになった場合でも,将来相続を進める場合でも,ご不安になったり,何か気になったことがありましたら,一度弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

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