遺言書を無視したらどうなる?罰則をうける?
はじめに
ご家族が亡くなりご自身が相続人となった際,亡くなった方が遺言を作成していたというケースがあります。
相続人の中には,遺言の存在やその内容について,生前からある程度知っていたという人も,亡くなってから初めて知らされたという人もいます。
特に,亡くなってから初めて遺言があることを知った方にとっては,その内容がご自身の希望通りであれば特に問題ないですが,予想外にご自身に不利な内容であれば,なんとか遺言を無視して遺産分割協議をしたい,と考える方もいるのではないでしょうか。
今回は,主に,遺言は無視しても問題はないのか,なにか罰則を受けることがあるのか,という点についてご説明させていただきます。
遺言の種類
前提として,遺言には主に3つの種類があり,それぞれによってその後の手続やとり得る手段が変わることがあります。そのため,まずは遺言の種類とその特徴を理解しておく必要があります。
1つ目は,自筆証書遺言です。
自筆証書遺言は,遺言者が自分で作成する遺言であり,法律上の要件(自書,押印等)を満たせば,法律上有効な遺言として認められます。特徴としては,自分で作成するため気軽に作成できる反面,本当に遺言者が作成したのか,誰かが勝手に加筆修正していないか,といった疑いを持たれやすいというリスクがあります。
2つ目は,公正証書遺言です。
その名の通り,公証役場の公証人という方の関与の下,公正証書として作成される遺言です。特徴としては,公証役場の公証人が関与するため,一定の手間と費用がかかります。その反面,公証人が作成に関与し原本は公証役場に保管されるため,作成主体や偽造の疑いをかけられるリスクはかなり下がります。
3つ目は,秘密証書遺言です。
秘密証書遺言は,遺言の内容を秘密にして誰にも知られずに作成できるものです。もっとも,実務上,遺言の多くは自筆証書遺言か公正証書遺言のため,最低限,自筆証書遺言と公正証書遺言の違いや特徴を理解しておくべきだと思われます。
なお,その遺言が自筆証書遺言か,公正証書遺言かは,その体裁から明らかであることがほとんどですが,不安な方は弁護士にご相談されることをお勧めします。
遺言を無視すると違法?
次に,どのような種類の遺言であれ,それを無視するの罰則があるのか,について説明させていただきます。
結論として,遺言があるからといって単にそれを無視して,ご自身の希望する遺産分割の内容を主張すること自体は違法ではなく,罰則もありません。
ただし,単に無視することを超えて,例えば次のような行動をとると,法律上の制裁を課される場合がありますので,注意が必要です。
まず,遺言(公正証書によるものや遺言書保管制度により保管されたものを除きます。)を見つけたにもかかわらず,家庭裁判所における検認手続をしない場合です。
検認とは,家庭裁判所が遺言を実際にその状態を確認する手続のことで,民法上,遺言の保管者や発見した相続人は,家庭裁判所に「遅滞なく」検認を請求しなければならない,とされています。そして,これを怠った場合は5万円以下の過料に処される可能性があります。
この検認手続は,わざとではなく,うっかり忘れてしまうこともあり得ますので注意が必要です。
次に,遺言を破棄,隠匿した場合です。
遺言の内容に納得がいかないからといって,わざと捨てたり,隠したりすると,刑法上の私用文書等毀棄罪に該当し,5年以下の懲役が科される可能性があります。加えて,相続人の欠格事由にもなりますので,そもそも相続人となる資格を失いかねないことにもなります。
遺言とは違う内容で遺産分割をする方法
上記の通り,遺言を単に無視すること自体は問題ないとして,実際に,遺言とは異なる内容で遺産分割することはできるのでしょうか。
以下の場合には,(実質的に)遺言を無視することができる可能性があります。
相続人全員の同意の下,遺産分割協議を行う
まず,相続人全員が,遺言の内容に従わないことに同意している場合には,原則として,遺言の内容を無視して遺産分割協議を行うことができます。その結果,遺言とは異なる結論の遺産分割協議が成立したとしても,有効です。
ただし,遺言に遺言執行者が指定されている場合には,その遺言執行者の同意も得る必要がありますし,遺言に遺産を法定相続人以外の第三者に遺贈するという記載があれば,その第三者に権利を放棄してもらわないといけない場合がありますので,注意が必要です。
遺言の無効を主張する
次に,遺言はあるけれども法律上無効だ,と主張することができる場合があります。
これは特に自筆証書遺言で問題になることが多いですが,例えば,作成上の要式に不備がある場合,遺言者が認知症で遺言の意味内容を理解せずに作成していた場合には,無効となる場合があります。
遺言が無効かどうかは,遺言者が遺言を作成した当時の状況,遺言者の状態等,様々な事情について,時に膨大な資料を調査する必要が出てくることがあります。
遺言が無効となれば,遺言がない相続と同様に,遺産分割協議を行うことになります。
遺留分侵害額請求をする
また,厳密には遺言を無視するわけではないですが,遺言がご自身の遺留分を侵害している場合,他の相続人に対して遺留分侵害額請求をしてお金を請求することが考えられます。
遺留分とは,簡単に表現すると,法定相続人(兄弟姉妹を除く。)に最低限保証されている遺産の取り分です。この最低限保証されている取り分を侵害する内容の遺言がある場合には,その取り分相当額の金銭を請求することができます。
典型的には,相続人は複数人いるのに,そのうちの一人に全遺産を相続させるという内容の遺言がある場合です。
遺言の中には,各相続人への遺産の分け方は不平等なものの,できる限り遺留分を侵害しないような内容にしてあるものもありますので,遺留分が侵害されているかどうかの判断が簡単ではない場合もあります。
最後に
以上の通り,遺言の内容を無視することはできるのか,について説明させていただきましたが,実際に,相続人全員の同意の下遺産分割協議を成立させられるか,遺言無効を主張できるか,遺留分侵害額請求ができるか,またそれぞれの法的手段については,難しい判断が必要になることが多いです。
このような状況に置かれている方は,ぜひ一度弁護士に相談されることをお勧めします。