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弁護士コラム Column

離婚届を勝手に出すとどうなる?リスクを弁護士が解説

2023年10月23日
名古屋丸の内本部事務所  弁護士 清水 良恵

はじめに

離婚を考えている方の中には、「相手方が離婚に応じてくれない」「離婚の話し合いの時間が取れない」「一刻も早く離婚したい」という状況から、「こうなったら、相手方に無断で離婚届を提出して、離婚を成立させてしまおう」と考える方がいらっしゃるかもしれません。

​​実際に、そのような悩みから、離婚届を勝手に出してしまったという事案もあるようです。

​​しかし、相手方に無断で離婚届を提出しても、離婚自体が無効になってしまったり、場合によっては犯罪に問われたりするリスクがあるので、決してお勧めできません。  

​​この記事では、離婚届を勝手に出すとどうなるか?その場合のリスクについて解説していきます。

離婚届を勝手に出すとは

裁判所等の手続きを介さず、当事者間で話し合いをし、離婚届を提出することで離婚が成立することを「協議離婚」といいます。

​​協議離婚の成立には①双方に離婚意思が存在すること②離婚の届出(民法765条、戸籍法76条)という要件をみたしている事が必要となります。

​​ 離婚届を勝手に出すというのは、①の離婚意思について、夫婦の一方に離婚意思がないのに、もう一方が無断で離婚届を提出してしまうという状況を想定しています。

​​例えば、以下のようなケースが考えられます。

ケース1:自分で離婚届を用意し、相手方の署名も含めて全て1人で記入し、相手方に内緒で役所に提出してしまった。
​ ケース2:夫婦喧嘩をしたときに、その場の勢いで双方が離婚届に署名をしたが、その後冷静になって、実際に離婚届を提出するには至らなかった。
​しかし、その後何年か経って、一方が離婚したいという気持ちになり、過去に2人で作成した離婚届を、相手方に内緒で役所に提出してしまった(なお、このケースでは、相手方は少なくとも離婚届提出時には、離婚の意思は全くなかったものとします)。

ケース2は、一見すると、双方が離婚届にサインしているので、離婚意思に問題がないのではないかと思われるかもしれません。しかし、法律上、離婚意思は、離婚届の作成時はもちろんですが、離婚届の提出時にも必要となります。

​​ケース2では、そもそも離婚届の作成時に離婚意思があったかも問題ですが、仮に作成時には離婚意思があったとしても、相手方は、離婚届提出時には翻意し、離婚意思は全くない状況であるため、協議離婚の成立要件①をみたしていないことになります。

したがって、ケース2は、相手方本人が署名しているとしても、提出時に相手方に離婚意思がない可能性もあるため、それを無断で提出する場合に後述するようなリスクが発生することになります。

離婚届を勝手に出すとどうなるのか

そもそも受理されるのか

結論から言うと、勝手に離婚届を出した場合でも、離婚届は受理されてしまいます。

​​市区町村役場の窓口の職員さんは、夫婦双方に離婚の意思があるかどうかは書面を見ただけでは分かりません。窓口の職員さんが、この離婚届が勝手に出されたものなのかを判断することは不可能です。

それゆえ、窓口の職員さんがチェックするのは、離婚届に民法や戸籍法で定められた事項が不備なく記入されているかという形式面のチェックのみになります。そして、書類の不備がなければ受理するという運用になっています。

​​窓口では、その場にいない相手方に意思確認するといったことはしてくれませんので、相手方の知らぬ間に、離婚の届出がされてしまうという事態が発生してしまうわけです。

このような形式面のチェックのみで離婚が成立してしまうという問題に対して、戸籍実務では、当事者本人の意思を反映させる手段として、離婚の届出を他方配偶者からの申出によって受理しないとする「不受理申出制度」というものを設けて対応してきました。この制度を活用している方々は多い印象です。

しかし、不受理申出制度だけでは必ずしも十分ではなく、現在、役所の窓口で離婚意思を確認することや、外国のように家庭裁判所を関与させて離婚意思を確認するといった対応を含めた見直しも考えられているようです。

​​もっとも、行政・裁判事務の増加、簡易・迅速な制度としての協議離婚制度が国民生活に根付いていることとの兼ね合いから、見直しには多くの困難があるようです。

戸籍はどうなるのか

離婚届が受理されると、それに基づいて、戸籍に離婚の事実が記載されてしまいます。  

​​戸籍の筆頭者については、単に、身分事項欄に離婚の事実が記載されます。 筆頭者ではない当事者の戸籍の変動については、
①元々いた戸籍に戻る
​②新たな戸籍を作る
​③婚姻時の姓を継続使用して新しく戸籍を作る

という3つのパターンが考えられます。

戸籍の変動等が生じるとはいえ、通常、戸籍の内容を常に気にして、把握している人は少ないので、戸籍の変動に気付かないまま月日が経って、久しぶりに戸籍をとってみたら自分の知らぬ間に戸籍が変更されていたという事態が生じ得ます。

離婚届を提出したら相手にバレる?

では、離婚届を勝手に提出したことは、相手方にバレないものなのでしょうか。

​​夫婦2人が揃って離婚届を提出しに行く場合を除いては、本人確認ができていないため、役所から「離婚届受理通知」という通知が届く運用になっています(戸籍法27条の2第2項)。

したがって、例えば夫婦の一方だけが離婚届を提出した場合は、もう一方に対しては離婚届受理通知が郵送され、離婚届を勝手に出したことはこの通知によってバレることになります。

​​もっとも、この通知を本人が受け取らなければ、知らないままということもあり得ます。

​​その場合は、ご本人が戸籍等を確認するまで、離婚の事実を知らないということになります。

無断で離婚届を出した後に考えられる流れ

たとえ戸籍に離婚した旨の記載がされてしまっても、当事者に離婚をする意思がなければ、法的には当該離婚は無効といえます。

​​しかし、いったん戸籍に離婚したということが記載されてしまうと、その訂正や削除をするためには、その記載を無効とする審判や確定判決を得る必要があります。

具体的には、まずは、家庭裁判所に対して「協議離婚無効確認調停」の申立てをすることになります。調停前置の対象になるので、いきなり裁判をすることはできません。

​​調停については、当事者双方が、届け出された協議離婚が無効であるということが合意でき、家庭裁判所が必要な事実の調査等を行った上で、その合意が正当であると認められた場合に成立します。その場合は、合意に相当する審判がなされます。その審判の結果をもって、役所に戸籍の訂正を求めることになります。

調停では合意ができず、調停不成立となった場合は、「協議離婚無効確認訴訟」を提起する必要があります。訴訟の中では、裁判官が離婚無効の事由があるかを判断します。離婚無効を求める側は、離婚届の提出時に離婚意思を有していなかったということを主張・立証することになります。

​​例えば、相手方が離婚届に勝手に自分の名前を署名していることについて、筆跡やその当時の夫婦の生活状況などから立証していくことになります。

​​最終的に、裁判官が離婚無効であるとの判断をすれば、その判決をもって、戸籍の訂正の届出をすることができます。

このように、神様の目から見て、離婚は無効といえる事案であっても、一度変更された戸籍の情報を簡単に変更することはできず、厳格な手続を経る必要があり、負担は重たくなっています。

離婚届けを勝手に提出すると罪に問われる?

特に、ケース1のように、離婚届の相手方の欄に、相手方の承諾なく署名し、役所に提出することは、下記の犯罪に該当し、逮捕・起訴される可能性もあります。

まず、相手方に無断で、離婚届の相手方の署名をした場合、その行為は文書の偽造になります。そして、役所に提出する目的で離婚届を偽造することは、有印私文書偽造罪(刑法159条1項:法定刑は3月以上5年以下の拘禁刑)に該当します。

​​また、偽造した婚姻届を実際に役所に提出する行為については、偽造私文書行使罪(刑法161条:法定刑は3月以上5年以下の拘禁刑)に該当します。

​​さらに、偽造した離婚届をもとに、公務員をして戸籍に虚偽の内容を記録させることになるので、電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項:法定刑は5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)にも該当します。

また、繰り返しになりますが、戸籍上は離婚になっていても、離婚届を勝手に提出し、法的には離婚が無効(=婚姻関係が続いたまま)になるので、その状況で他の人と婚姻してしまうと、重婚になり、重婚罪(刑法184条:法定刑は2年以下の拘禁刑)も加わってしまいます。

虚偽の離婚届で逮捕に至った事例

以上のように、虚偽の離婚届を役所に提出する行為は犯罪行為なので、その事実が警察に発覚すると逮捕され、場合によっては起訴され、刑事罰を受ける可能性があります。

​​2023年9月27日には、離婚調停中だった夫が、長男の単独親権者になることを企てて、離婚届の親権欄に自分の名前を、署名欄に妻の名前を記載するなどして偽造し、東大阪市役所に提出したことについて、有印私文書偽造・同行使の疑いで逮捕されたということが報道されていました。(離婚届偽造し提出 男3人を容疑で逮捕 岡山県警真庭署(山陽新聞デジタル) - Yahoo!ニュース

また、2019年1月24日、夫に無断で離婚届を提出したとして、妻が有印私文書偽造・同行使、電磁的公正証書原本不実記録・同供用の疑いで逮捕されたということも報道されています。

署名を偽造、夫に無断で離婚届を出した疑い 妻を逮捕:朝日新聞デジタル (asahi.com)

なお、相手方に無断で婚姻届を提出してしまった場合も同様で、有印私文書偽造・同行使の疑いで逮捕された事案がいくつかありました。

このように、離婚届を勝手に提出したことで、逮捕された事案は複数存在するので、逮捕される可能性は否定できません。また、過去の裁判例の中には、他の罪名も加わっていましたが、実際に起訴までされて、刑事罰を受けたという事案もありました。

離婚問題を弁護士に相談

ここまで、離婚届を勝手に提出した場合に考えられるリスクについて解説してきました。

​​離婚届を勝手に出しても、相手方に離婚意思がない以上、法的には離婚が無効といえます。そして、そもそも離婚届の署名を偽造するといった行為は、犯罪行為に該当します。

​​したがって、一刻も早く離婚をしたいと思っても、安易に離婚届を勝手に出すことはとてもリスクが高く、かえって紛争を長引かせることにもなりかねません。

​​協議離婚がなかなか進まなくて困ったとしても、少し立ち止まって、一度弁護士にご相談ください。

弁護士に相談するメリット

相手方が離婚に応じてくれない場合はどうすればよいのでしょうか。

​​協議離婚は、あくまでも相手方の合意がなければ成立しないので、相手方との話し合い、交渉が必要不可欠になります。交渉を進めていくためには、法的に何が主張できるのかということを知ることは重要だと考えます。

​​また、協議離婚が難しい場合は、最終的には裁判離婚を視野に入れて動いていく必要があるため、裁判所の考え方を知っておくというのも重要です。

​​弁護士に相談することで、今後の見通しが分かったり、交渉を有利に進めていくためのヒントを得られたりするのではないでしょうか。

また、交渉自体が難しい相手方に対しては、代理人を立てて、その者が窓口になって交渉することが適切である場合もありますので、弁護士がお力になれると思います。

弊所では、これまでにも「協議離婚をしたいが、相手方が離婚に応じてくれないのでどうしたらいいか」「相手方が離婚届にサインしてくれないので困っている」といったご相談を数多く承っております。

​​弁護士への相談は、敷居が高いと感じる方も多いかもしれませんが、同じ悩みを抱えている方はたくさんいらっしゃいますので、安心してご相談ください。

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