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弁護士コラム Column

退職を期に離婚する際に決める事を弁護士が解説

2024年03月07日
静岡事務所  弁護士 河野将磨

はじめに

近年、価値観の違いなどから、定年退職を機に離婚をするというケースが見られます。そこで、本記事では、熟年離婚に際しての注意事項などについて解説していきたいと思います。

定年退職・離婚のタイミングとは

定年後に離婚するメリットとデメリット

定年退職後に離婚するメリットは、離婚は時間的・体力的・精神的な負担が大きいので、仕事を退職した後、離婚についてじっくり協議できる点です。

​​夫婦間の協議がまとまらず離婚調停・離婚訴訟となった場合、仕事を休んで期日に出席しなければなりませんので仕事を気にせずに離婚を考えることは大きなメリットと思います。

​​また、ほとんどの場合、定年後は子どもが成人している場合が多いため、親権や養育費について争点から外れるので、離婚において考えなければならない事項が減ります。

​​加えて、退職金の算定について、定年退職前に分与する場合は、算定方法によって実額より低い金額が認められる場合もあるので、実際に支給された退職金に基づいて分与できる点もメリットといえます。

一方、定年退職後に離婚するデメリットは、定年退職からある程度たった後に離婚をする場合、資産がなくなっているケースもあるため、婚姻費用、慰謝料、財産分与などを得られにくくなることが挙げられます。

定年退職と離婚、どちらが先?

定年退職と離婚どちらを先にするべきかについて、絶対的な正解があるわけではありませんが、上記で挙げた事情や生活状況を踏まえて判断してく方が良いと考えられます。

離婚を決意するタイミングの重要性

上記のとおり、離婚のタイミングによって財産分与などの金額が変わることがあります。

​​また、以下に述べる離婚原因として、別居を必要とする場合、別居先の確保など十分な準備をしなければ離婚が認められない可能性があります。そのため、離婚のタイミングは慎重な判断が必要となります。

熟年離婚に至る原因とは

男性・女性の定年離婚の原因( 長年夫婦として生活する中で生じる不安)

離婚原因は夫婦ごと様々な事情があると思いますが、長年夫婦として生活する中で生じる価値観や性格の不一致といった積年の不満が、夫婦関係の不安に繋がり、定年退職を機に離婚を決意することに繋がっていくと考えられます。

老後離婚の可能性とその理由

老後離婚について、双方が離婚に納得していない場合、離婚をすることは難しいと考えられます。

​​離婚は当事者間の協議によりすることができますが、仮に一方が離婚に納得しておらず、裁判となった場合は、法律上の離婚原因(民法770条)が認められないと離婚ができないとされています。

​​法律上の離婚原因として、①不貞行為、②悪意の遺棄、③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき、④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるときが挙げられています(民法770条)。

​​実務上、いわゆる性格の不一致は、直ちにはこれら「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとは認められない傾向にあります。

一般的に老後離婚の場合、上記のような事由がないことが多く、一方が離婚に納得しておらず裁判になった場合、離婚が認められない可能性があります。もっとも、実務上、長期間の別居状態を「婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚を認めています。そのため、離婚に応じてもらえないような場合は、別居を検討する必要もあります。

財産分与と年金分割の方

退職金・財産分与の考え方

財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を離婚時に分け合う制度です(民法768条)。財産分与の内容は当事者間で決めるのが原則ですが、協議が整わず調停や裁判に移行した場合、実務上財産の2分の1で分与することになります。

​​財産分与の対象について、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産、すなわち夫婦共有財産が対象になります。

​​これに対して、婚姻前から所持していた物や親から贈与してもらった物など夫婦が配偶者の協力を得ずに単独で所有していた財産(特有財産といいます。)は分与の対象外です。

退職金についても財産分与の対象となります。

​​裁判等になった場合の退職金の算定方法として、主に、①別居時に自己都合退職した場合の退職金相当額を考慮する方法、②定年退職時の年金から別居後・婚姻前の労働分を控除し、中間利息を控除した後、審判・口頭弁論終結時点の価値に引き直して算出して算定する方法があります。

なお、財産分与は離婚後も請求することができますが、離婚の時から2年を経過したときは請求できなくなるので注意が必要です(民法768条3条)。

年金分割について

会社員などの場合、国民年金のほかに厚生年金も納めていますが、離婚に際して、婚姻期間中の厚生年金記録を分割する制度を年金分割といいます。

​​これにより、分割後の保険料納付記録に基づいた額の年金を受給することができます。なお、保険料納付期間等を分割する制度なので実際に受給する年金を分割することはできません。

年金分割には、合意分割と3号分割があります。

​​合意分割は、離婚した際に夫婦の合意により厚生年金記録(夫婦の報酬比例部分の合計)を分割しますが、実務上、2分の1とする場合がほとんどです。3号分割では、国民年金第3号保険者で、2008年5月以降に離婚した場合、夫婦の合意が無くても、2008年4月以降の第3号被保険者期間について、第2号被保険者の厚生年金の2分の1を分割できます。

なお、公正証書や調停調書などで年金分割を定めていない場合、年金分割に関する書類を夫婦それぞれが提出する必要があるので、離婚する際に年金分割について相手方に理解をしてもらう必要があります。

老後生活を考慮した財産分与の準備

財産分与には、上記のような婚姻中の夫婦の共有財産の清算という性質のほか、老後の扶養といった性質もあります。

​​老後は年金以外の収入が見込めないことも少なくないので、離婚後の生活が十分とはいえないような場合は老後の生活の保障といった観点から、相手方に扶養的財産分与について話し合いをしていくことが考えられます。

弁護士に依頼する理由とそのメリット

特に熟年離婚の様に長年連れ添っての離婚は、上記の様な離婚原因が無い場合が多く、一方が同意しない場合に離婚が出来ない場合もあります。また、財産分与などの算定が難しいという場合もあります。

​​弁護士委任をしていただく場合、弁護士が専門的な観点から離婚原因の有無や妥当な財産分与の金額での解決に導き出すことができます。また、配偶者と離婚でもめている場合は、積年の恨みなどからなかなか解決できない場合もあるので第三者が介入することでよりスムーズに解決につながる可能性があります。

離婚がもたらす生活の変化

離婚における不動産関係(自宅・別居...退職後)の問題

上記の場合、明確な離婚原因がない場合は、長期間の別居により離婚が認められるケースが多いので、まず、離婚を考えた場合別居を考える必要があります。

​​もっとも、熟年離婚の場合、両親が他界している等の事情から実家に別居できないケースや資産や収入などの問題から別居先となるアパートを借りられないといった問題もありますので、別居を検討する際に別居先の確保について検討する必要があります。

​​なお、別居に際して一方に対して婚姻費用の支払いを請求できる場合もありますので、婚姻費用から別居後の生活費を賄うことも可能です。

また、持ち家を財産分与する場合、ローンが完済されているかで分与の仕方が変わってきます。

​​まず、ローンを完済している場合、実務上、一方の名義に変更したのち、持ち家の時価の2分の1に相当する金銭をもう一方に支払う形で分与がなされます。

​​一方、ローンが完済できていない場合、持ち家の時価とローンの金額を比較して残ローンが多い場合は、オーバーローンとなり、持ち家は財産分与の対象ではなくなります。​​この場合、実務上、ローンの支払いをする方が持ち家を取得するケースが多いです。

子供がいる場合の離婚と親権問題、相続問題

離婚をする場合、未成年(18歳以下をいいます。)の子がいる場合、親権者をどちらか一方に定める必要がありますが(民法819条)、親権者をどちらにするかで争いになり離婚ができないケースが多々あります。

​​また、お子さんを監護していない一方は、子を育てる費用として、相手方に対して養育費を支払わなくてはなりません(民法877条1項)。

​​養育費の金額について、当事者間で定めることができますが、実務上、双方の収入、子の数及び年齢を基に養育費・婚姻費用算定表を用いて計算がなされますので、養育費の話し合いをする際に一度調べてから話し合いを行うと良いと思います。

離婚をした場合、配偶者間において相続関係はなくなりますので、ご自身がお亡くなりになった場合に相手方が相続人となることはありません。

​​もっとも、お子さんの相続権自体は親権者で亡くなった場合も消滅しませんのでお子さんにも相続させたくないといった場合、遺言書などで別の相続人を指定するなどお子さんに財産が行かないようにしておく必要があります。

​​なお、この場合でも、お子さんには自身の法定相続分の2分の1について遺留分があるので(民法1042条)、一定額お子さんに財産が相続されることは免れません。

離婚への心得・注意点

離婚を検討中の方への弁護士からのアドバイス

離婚原因で争っている場合、まず、離婚原因を踏まえて離婚ができるか、また、離婚原因が無い場合には別居をするなど離婚原因を作れないか考えていく必要があります。 

​​また財産分与について、本格的に争うと相手方が財産に関する資料を開示してくれなくなり、財産隠しをされたまま財産分与がなされる可能性があるので、交渉をする前に預金口座をコピーしておくなど相手方の財産を調査しておく必要があります。

離婚で起こるトラブルとその対処法

離婚協議中のトラブルとして、相手方が別居中に家に押しかけてくることが有ります。

​​たとえ夫婦であっても別居中の自宅に押し掛けるといった行為は違法行為に該当し得るので、警察を呼ぶなどして家に来ないように警告をしてもらう必要があります。

​​それでも相手方が家に押し掛けるのをやめない場合は、DV防止法やストーカー規制法に基づき接近禁止命令などの発令やシェルターを案内してもらえる場合もありますので、お困りの際は弁護士にご相談ください。

離婚の話し合いをスムーズに進めるためのポイント

上記のとおり、離婚の話し合いにおいて、積年の恨みなどから相手の罵り合いに発展し、協議が進まないことがあります。

​​まずは、双方において、離婚をしたいか、離婚をする場合に何をどの割合で分与するのかなど、離婚に際して必要になる事項について話し合う内容をあらかじめ明確にしておくと話し合うポイントが明確になりより円滑な話し合いになると考えられます。

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